映画の祭典である米国アカデミー賞の授賞式の場で、今年、前代未聞の出来事が起きたことはまだ皆さまの記憶に新しいことと思います。作品賞の発表時に受賞作を間違えて発表してしまったのですね。「ムーンライト」と「ラ・ラ・ランド」を間違えてしまったのです。
毎年、年が明けるくらいからですかね?アカデミー賞の受賞を見越して、「作品賞最有力」が乱立するのは映画業界の風物詩なのでしょうけれど、今年は圧倒的に「ラ・ラ・ランド」の「最有力・大本命」の刷り込みが激しかった気がしませんか?「ラ・ラ・ランド」が「史上最多部門受賞」で圧勝するのが既成事実かのような予告宣伝を随分と見たような気がしていましたが、蓋を開けてみると「ムーンライト」が一瞬の末脚を使って、大逃げを打っていた「ラ・ラ・ランド」を差し切ってしまったのです。
僕は何年かに一度起こるこういった逆転レースを検証しようと、この二本を観てきました。
ラ・ラ・ランド」の方が先に上映されていたので、先に観ました。平日の木曜日の昼間に観たのですが、混んでましたね〜。伏見ミリオン座満席でしたね。もうアカデミー賞の結果は出ていましたけれど、いやいや何のその。
内容はいわゆる「映画の夢」に浸るとでもいうのでしょうか。お話の筋としてはそんなに新しいところはないであろう、ラブストーリーと言ってもいいのだと思いますが、そこは王道ハリウッド映画、主人公たちが憧れる世界が華やかなんですよね。随所に取り入れられるミュージカル・シーン。ダンスも音楽も主要なテーマですからグイグイですよ。観終わった後、あのテーマ曲のイントロが何日も頭の中で流れること請け合いです。
作品で特に僕がこりゃすごいな、と思ったのは(皆さんも一緒だと思いますけど)ライアン・ゴスリングの演奏能力ですね。ピアノも実際に彼が弾いているとのことです。彼はバンド活動などで音楽の経験は持っていますが、ピアノはこの映画のために練習したようです。いや、すごい。ジャズ音楽を趣味にしてる方から見たら実際のところはどうかはわかりませんが、僕には本物のジャズピアニストの演奏に見えました。かなり熱かったですよ。僕はライアン・ゴスリングの出演作は「スーパー・チューズデー」「ドライブ」「オンリー・ゴッド」とかなり偏った作品を観ていたので、タフガイのイメージが強かったのですが、かなりイメージ変わりましたね。でも芯の強さを常に感じさせるやや冷めた視線。イメージ変わらんか。
時折ギャグも入って来るし、楽しい映画でもあります。欲を言うとこの映画の監督であるデミアン・チャゼルの前作、有名な「セッション」でアカデミー助演賞を獲得しているJ・Kシモンズにチョイ役ではなくて、しっかりとした役を与えて欲しかったというところが残りましたかな。
まぁ、僕が言っても何様だという感じですが「ラ・ラ・ランド」。オススメですね。本命の作品賞は逃しましたが…。
ここでにわかに信じがたい話を一つ。「ラ・ラ・ランド」をご覧になった方には本当に信じられないであろうという話です。
僕には娘がいます。3月26日に僕の実家に遊びに行っていた娘は僕の母と一緒に「ラ・ラ・ランド」を観に行きました。そこで僕の母はオープニングのところで居眠りをしたというのです。あのハイウェイでのダンスシーンです。この作品の中であのシーンは「つかみ」を超えて、むしろ一番印象に残るシーンだと思いますし、あのいきなりの展開は鑑賞者のハートを文字通り鷲掴みする、映画史に残る名場面だと僕は思いましたが、あそこでいきなり眠りに落ちることができる人間が存在することは、大げさに言えば、「人間」というものの理解にまた一つ大きな謎を与えたと言っても過言ではない気がします(笑)。母にも言質を取ったので事実です。その後は最後までちゃんと観たと言っていました(笑)。
で、次に「ムーンライト」です。この映画は非常にナイーブな問題を扱っていて、正直僕がこの映画の内容をどのくらい理解というか、共感できているかというのははっきりとは言葉にして表現できないのですが、観る側の感情移入がとても大切な映画、特に注意深くしっかりと観ないと、よくわからないというか、観る意味を感じることができない種類の映画であることは間違いないと思います。いわゆる面白い映画かと言われれば面白い映画ではありません。
登場人物は必要最小限な配役ですが、特に主人公の少年期の父親代わりとなるドラッグ・ディーラーの「フアン」に対しての観る側の感情移入は、かなりグッとくるのではないかと思います。現代アメリカ(実際の映画では現在から「フアン」が出てくる章は、今から20年くらい前の設定だと思いますけど)の問題点の体現ということでは絶妙だと思いました。
賞ということであればこの「フアン」役でマハーシャラ・アリはアカデミー助演男優賞を受賞しました。これはうなずけます。すごくいい役をぴったりの役者が演じていたと思いました。しかも歴代助演男優賞の中で劇中の登場時間が最も少ない配役での受賞らしいです。それだけの存在感を醸し、必要な役柄であったということですね。
この映画の宣伝で「この映画を観ることが(我々が)映画を観ることの理由なのだ」といった、正に映画批評における最大級の賛辞が送られていました。絶賛の言葉が並んでいました。この映画を観た後では別人になっているとか…。
僕自身まれにこの映画を観るか、観ないかでは人間2種類に分けられるよな、といった映画に出会った経験があります。もちろん観ない方がもったいないという意味です。
この「ムーンライト」は僕の独断と偏見で言えば日本人には少し難しいところが多いかな、というのが感想です。かなりリアルでシリアスな内容の作品です。リアルでシリアスでナイーブ娯楽映画ではありません。静かに口数少なく、生きていくにあたってそれぞれの「優しさ」を持ち合うことの尊さを訴えます。「ムーンライト」が皆さまの映画を観ることの理由になることを祈ります。
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